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★歯科情報の交換とコミュニケーションのために

あごの機能と審美義歯

       NDc  長岡デンタルコミュニケーションズ

ブラキシズム・はぎしり BruxismReport

ブラキシズム・はぎしり とは?

 表1強いブラキシズムに関連して,引き起こされる障害

 ・顎関節症(あごの痛み,開口障害,関節雑音)
 ・頭痛(緊張型頭痛),かたこり,くびの痛み
 ・歯の強い摩耗,破折,知覚過敏(歯がしみる)
 ・歯の咬合痛,違和感
 ・歯周病の悪化,歯の動揺
 ・冠(さしば),ブリッジ歯の破損や,破折)
 ・義歯の破損,使用時の痛み

 夜寝ているうちに“ぎりぎり”“かりかり”という音のする「歯ぎしり」は,睡眠時に歯を強くこすり合わせる運動によって発生しており,あごを動かす中枢が活性化されることによって引き起こされると考えられています.
 軽度のはぎしりは,普通の人でも観察され,必ずしも病的な物ではありませんが,強すぎる歯ぎしりの存在は,歯やあごの障害の原因や誘因となることが明らかにされています(表1) 実際に睡眠時の歯ぎしりの力は,日中の最大咬みしめより数倍大きいことが報告されています

 ところで「歯ぎしり」の仲間には,“ぎりぎり”音のする物だけでなく,歯をこすり合わせずに強く噛みしめる「食いしばり」もあります,「食いしばり」は睡眠時だけでなく,日中目覚めている時にも発生しますが,通常は音がせず,また長期間習慣的に行っているため,歯が強く接触していること自体を自覚していない人が少なくありません.実際に,種々の検査で,「歯ぎしり」や「くいしばり」があると診断される人でも,自覚のある人はわずかに1/3〜1/5程度ですが,音のしない「歯ぎしりも」あることを覚えておいて下さい.なお,「歯ぎしり」や「食いしばり」は,食事や会話のような通常のあごの運動とは無関係に,過剰にあごの機能が高まる習癖と定義されており,専門的にはブラキシズムと呼ばれています.

ブラキシズムは,あごや体にどのような影響を与えるのか?

 ブラキシズムは,正常な人でも認めると述べましたが,それでは,ブラキシズムにはどのような生理的な作用があるのでしょうか? まず第一に,あごの機能が高めることによって,無意識のうちにストレスに対処している可能性があります.人間は危機的状態において骨格筋を収縮させて衝撃に備えることから,強いストレスや緊張を感じた場合には,日中や睡眠中のブラキシズムが増加することが知られています.
 
 これ自体は生理的な反応ですが,ストレスが長く続き,強いブラキシズムが習慣化すると,歯やあごのトラブル,肩こりや頭痛の原因となる場合があります.典型的な物として,あごの痛みや開口制限を認める顎関節症が挙げられますが,これ以外でも多くの身体的な障害の原因や誘因となると考えられています(図1,2).う蝕や歯周病の管理が良好であるにも関わらず,最後方歯のトラブルが生じている人は,ブラキシズムが原因となっている可能性があります (図3).このような過剰な機能亢進によって発生する障害を,最近歯科では口腔圧縮症候群(Dental Compression Syndrome)と呼びますが,強すぎる免疫反応が引き起こすアレルギーと同様に,歯科的あるいは,全身的な問題を引き起こす反応と考えられます.

 図1強いブラキシズムによって生じた歯の欠損.強い力の加わった歯と歯根の境目で,歯質のくさび状の欠落が発生しています.見た目に影響するだけでなく,知覚過敏の原因となります.はみがきだけでは,このような歯質の欠損は生じません.  図2 強いブラキシズムが原因と考えられる臼歯の亀裂.繰り返し強い力が加わることによって生じる,歯の疲労破折であり,中高年の患者さんで,かつ,力の加わりやすい,後方の臼歯で生じやすい.
   
 図3 後方歯の破折により,インプラント治療を行った症例
1:左下奥に金属冠が入っている.口腔内の管理が比較的良好であるにも関わらず,すでに一番奥の歯が欠損してい  ます.よく見ると金属冠には歯ぎしりによる,ひっかきキズが認められます.
2:冠の入っている歯の周囲が突然腫脹し,レントゲンで確認すると歯根が破折していることが分かります.
3:保存困難なため抜歯.根の部分に縦に破折線が確認されます.
4:破折歯抜歯後にインプラントで修復しましたが,ブラキシズムにより,継続的な強い力が加わる可能性が高く,  注意深い,継続的な管理が必要です.

なぜ,ブラキシズムが,歯科で最近注目されているのか?


 左の写真は,発掘された縄文人の下顎ですが,う蝕や歯周病は認めませんが,歯のエナメル質が無くなるほど,平らにすりへっています.もちろんこのような摩耗は,ブラキシズムによるものと言うより.十分に調理されていない,堅い食品をしっかり咬んでいたため生じたと考えられます.これあごを見る限りでは,堅い物をしっかり咬み,あごを鍛えることは,あごの健康にとって必要であり,ブラキシズムによって歯が摩耗するのも,自然な現象と言えるようです.ただ一点注意が必要なのは,縄文人の成人の平均寿命がせいぜい40歳程度で,このあごの持ち主も,強い力による障害が発生する前に死亡したと推察されことです.(強いブラキシズムによる障害は,顎関節症を除けば,ほとんどが中年以降に発生します)
 

 ひるがえって,現在の日本人の平均寿命は80歳を超えますが,これは5万キロ程度を想定して製造した自動車を10万キロ以上乗るのと似ており,生物学的な耐用年数を超えて歯を酷使している可能性があります.実際に,長期間の歯のメインテナンスを行っていくと,年齢とともに,歯や歯根の破折や,補綴物(冠やブリッジ)のトラブルが発生する頻度が高くなるため,ブラキシズムを認める患者さんでは,トラブルを回避するために,過剰な負担を避けることが必要と考えられるようになっています.なお,ブラキシズムのような過剰な力が,歯科的な障害と関連することは以前より知られていましたが,う蝕や歯周病治療の進歩に伴って,う蝕や歯周病に紛れて分からなかった障害が目立つようになってきたことも,最近ブラキシズムが注目される理由の一つと考えられます.

 ところで,最近の若者はあごの機能が低い,と指摘がされることが多いのですが,過剰な力による障害も有ることから,すべての患者さんに対して,硬堅物咀嚼や,表情筋(咀嚼筋)のトレーニングを推奨することは望ましくありません.機能が高すぎても,低すぎても障害の原因となるため,機能的なトレーニングを行う際には,事前に正しいあごの機能評価を行い,機能が高すぎる場合は,低下させるトレーニング(例ブラキシズムコントロール)を,また低すぎる場合は高めるトレーニング(例;筋機能訓練:MFT)を選択する必要があります.



ブラキシズムのセルフ・チェック法

 強い「歯ぎしり」のある人は,犬歯や前歯の先端が強く摩耗していることが多く,歯を見ると,ブラキシズムの有無が確認できます(図2).ただし 若い人や,あごの横ずれがない「食いしばり」タイプの人は,前歯の摩耗が明確でないため,摩耗が無ければブラキシズムが無いとは言い切れません.また,睡眠時の「歯ぎしり」の強い人は,周囲の人から指摘されて自覚している人もいますが,日中の「食いしばり」を自覚している人は少ないと思います.
 
 簡単な「食いしばり」のチェック法としては,唇を軽く閉じ,上下の歯を少しだけ離した時のあごの違和感を調べる検査がありますが,この状態であごに違和感を感じる人は,「日中の食いしばりがある」と診断される場合があります.なお,生活習慣では,日常的に重量物運搬や激しいスポーツを行う人,ストレスが多く緊張しやすい人は,また抗うつ剤の投与を長期間受けている人は,強いブラキシズム習癖を認めることが多いので注意が必要です.


強いブラキシズムを認める場合は

 
  図4 強いブラキシズム患者さんに,使用したスプリント.わずか一週間程度で,堅いプラスチックがすり減っており,ブラキシズムそのものは,軽減していないことが分かります.

 強いブラキシズムがあれば,直ちに歯やあごのトラブルが発生するわけではなく,歯やあごが丈夫で,力がうまく分散されている人は特別な治療は必要ありません.ただしこのような人でも,生活環境の変化やストレスの増加,歯の治療をきっかけに障害が発生する場合もあるので,定期的なチェックが必要です.

 ブラキシズムの対処法としては,現在マウスピースを推奨するされる場合が少なくありませんが,スプリントが,ブラキシズムそのものを軽減する作用はあまり高くないため(図4),管理人は,まず日中の「食いしばり」や睡眠時の「歯ぎしり」を減らす習癖トレーニング(認知行動療法)を中心に,あごや首の負担を軽減する日常生活の指導を行います.また患者さんによって,かみ合わせの調整や,歯を保護する目的で使用するマウスピースの装着,筋弛緩剤(筋肉の緊張を和らげる薬)を追加する場合もあります.

 ブラキシズムのタイプや強さには個人差が大きく,適切に対処するためには,事前に詳しい診査が不可欠です.歯ぎしりを自覚している方だけでなく,“知覚過敏や歯の摩耗が多い”,“冠や入れ歯がたびたび壊れる”“歯周病の進行が早い”などの症状のある方は,一度ブラキシズムの診査を受けてみてはどうでしょう?


歯科医療者向け情報

解説

2020年 ブラキシズムに起因する顎口腔系の障害と対処法

 
 日本睡眠歯科学会に掲載された,ブラキシズムによる障害と,対処法に関する解説です
 Jーstageで後悔されている論文で,誰でも閲覧・ダウンロードが可能です

 →ブラキシズムに起因する顎口腔系の障害とその対処法.pdf へのリンク

アーカイブ情報

習癖指導と,咬合管理による”力のコントロール法”セミナー


2019 歯ぎしり・噛みしめリラクゼーショントレーニング指導用紙














2018年新潟県歯科医師会 実技講習実習
力のコントロールから見た,睡眠時・覚醒時ブラキシズムと咬合管理実習

 ブラキシズム診査表


 実習で使用した,診査表がダウンロード出来ます.著作権は保持しています.個人の病院での利用を目的とした,改変,変更は自由ですが,それ以外の目的に使用する際はご連絡ください.

配布資料にパスワードが記載されています


→ブラキシズム診査表(word2016 形式)ダウンロード.参加者用

→プラキシズム診査表(PDF形式)ダウンロード,参加者用














2019年歯周科セミナー
力のコントロールから見た、ブラキシズムと咬合の管理ーその理論と実践

実習と使用したブラキシズム診査表と,噛みしめトレーニング指導用のパンフレットです.個人の病院での利用を目的とした,改変,変更は自由ですが,それ以外の目的に使用する際はご連絡ください.

配付資料にはパスワードが設定されています.
word2016ファイルが読めない場合は,ご連絡ください


→ブラキスム:診査・評価表(word2016)

→噛みしめリラックストレーニングパンフレット(word2016)












総合的力のコントロールの概要は,歯科専門雑誌ザ・クインテッセンス11月号,12月号,2011年に掲載されましたのでご参照下さい。

11月号は,強いブラキシズム(はぎしり)に伴う障害の発生とともに,口腔に加わる過剰な力の軽減を目的としたパッシブコントロール:認知行動療法を主体とする,習癖指導に関する解説を行っています.



 →パッシブコントロール全文(PDF) 会員専用


12月号は,過剰な力が発生した際に,歯や歯周を保護するアクティブコントロール:ブラキシズム症例における咬合の管理=動的咬合平衡化について解説を行っています







 →アクティブコントロール全文(PDF) 会員専用


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Fax 03-6368-6664
E-mail 2010nagata@mbr.nifty.com


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