このページには,過去の発表や,講演の記録の中で,印象に残った物をアーカイブしています
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新潟県歯科医師会館 2011.10月3日 日曜日
深井加藤歯科主催
石井正敏先生45周年記念講演会
左より
深井浩一先生(深井・加藤歯科院長)
多和田泰之先生(くりの木歯科院長)
石井正敏先生(石井歯科医院院長)
久保田健彦先生(新潟大学医歯学総合病院 講師)
永田和裕「日本歯科大学新潟病院 准教授)
挨拶:深井浩一
今回、石井先生を囲み、先生の長いご経験をお聞かせ頂ける貴重な機会を企画させて頂けることを嬉しく光栄に思います。先生とは15年程前にアメリカ歯周病学会(AAP)で発表を行った際に声をかけて頂いたのが縁でした。先生は、この分野に、ただただ一生懸命という姿勢を若い頃から続けられていました。そのためか近寄り難いとの評判もありました。30年近く前でしょうか、アルバイト先の院長が歯周病を教えろ、と軽く言ったら、原書を2冊を贈られ、読んでからだと言われてしまったと、こぼしていたのを思い出します。若い頃の先生はそれほど直向きで「おっかない」先生だったようです。おもねらない風貌はそのままに、患者さんと歩んだ45年を披瀝されるのは後進にとってまたとない機会です。そんな先生は、インプラント治療や再生療法はあえてroutine
workにしていないと聞きますが、このあたりも含めて討議できればと今回の指定発言の先生方にお集まり頂きました。石井先生の講演の後、順に指定発言を頂き、先生のご意見を、また私の方でもいくばくかの質問を症例と共に皆様に提示したいと思います。
メイン講演:石井正敏
本抄録は,若い歯科医師への指標となるよう,石井先生から特別に許可を頂いて掲載させて頂きました
私の歯科医療観
-45年の歯科医師生活を振り返って-
新潟市開業 石井正敏
キーワード:専門家(Professional)、師(Mentor)、修復補綴治療、根管治療、歯周治療
私は1965年に歯学部を卒業し、1969年に新潟市で開業した。我々が歯科医師として働いてきた時期は日本が高度成長期に入り、社会的にも大きな変化を経験してきた時代であり歯科医学も歯科医療も進歩をとげて現在に至っている。開業以来一人の歯科医師としてどのような考え方で患者さんの治療にあたってきたか簡単にその変遷を述べてみたい。自分としてはその時点において、患者にとって最善と考えた治療を心がけてきたつもりであったが、その結果が意に反した場合も少なくなかった。経験を通して若い歯科医師に伝えたいことは、患者の正確な診療記録を残しておくこと、生涯を通しての継続的な学習、そして反省的実践家であってほしいということである。
1.プロフェッショナルを目指して欲しい
はじめに私の尊敬する故Dr. John Prichardが1988年に執筆したChanging concepts in periodonticsの一部を紹介したい。『時として十分に計画され遂行された研究結果から誤った結論が導き出されることがある。それ故に患者を管理するにあたって、臨床研究の統計学的分析のみに立脚することはできない。臨床観察は独善的(anecdotal)といわれるが、それは歯周治療学に関するすべての科学的研究に最終判断をくだすために用いられるものである。歯科医療に求められるのは正直な自己評価である。しかし現実には多くの門外漢すなわち商業的に動機づけられた人々が行政と臨床に影響を及ぼしている。(中略)不必要な治療や利益追求の欲望があらわになるにつれ、歯科医業は健康を管理するという本来の分野を忘れ、商業市場へとその身を委ねてゆく。』
この文章の中に現在の日本の歯科界のかかえている問題点が凝縮されている。昨年来新聞テレビ等の報道で繰り返された犯罪的なインプラント治療は極端な例かも知れないが、歯科医師の役割は患者の自然歯列を生涯にわたって、健全な状態で機能を営むように手助けをすることであると強調したい。そのためには患者にとって何が重要であるかを冷静に判断する能力が求められよう。新しい技術を臨床に取り入れるのに性急なあまり、インプラントが患者の歯の保存よりも優先されることは絶対にあってはならないことと思う。またインプラントの治療がさまざまな理由のため適応できない患者の方が圧倒的に多い現実を考えると、従来の伝統的な技法による可撤性義歯も、少なくとも定型的な術式をきちんと習得しておき、さまよえる患者を少なくする努力も一般開業医にも求められると思う。そのような意味において、若い歯科医には、歯科の分野におけるプロフェッショナル(Professional)を目指して欲しい。プロフェッショナルは、完璧を目標として、最善の努力を継続することが求められ、この努力は歯科医師を続ける限り、生涯を通じて続けなければならない。
近年歯周医学(Periodontal medicine)という新しい分野が注目されるようになり、歯科は医学におけるきわめて重要な一分野であり、歯科医師は全身を理解した上で、口腔領域の専門家として、来院する患者の治療にあたらなければならないと思う。若い歯科医には、いかさまやはったりではない、本物の臨床を優れた先輩に学び、歯科に本気で取り組んで欲しい。そうすれば厳しいといわれる歯科界を乗り切っていくことができるものと信じている。G.V.Blackは歯科医学は生涯を通して学ぶべきものであって、歯科医師は継続的学徒であらねばならないと繰り返し述べている。上杉鷹山公の和歌「なせば成る、なさねば成らぬ何事も
何事も成らぬは人の成さぬなり」を座右に生涯をかけてこの仕事に取り組んで欲しいと願っている。
2.良き指導者(Mentor)
私達は生まれてから死に至るまで多くの出会いを通して人生が形成されていく。そのなかの印象的な出会いはその人の生き方を左右するほどの影響を与える。なかでも良い師、指導者(Mentor)との出会いは、本人の備えた知識、経験、感性があって良きタイミングのもとに(邂逅の機会が)得られるものであって、決して漫然と待っていて向こうからやってくるものではない。
2008年9月のアメリカ歯周病学会の会長であったDr. Karabinは総会の会長挨拶で、師(Mentor)について自身の経験をもとに語った。Mentorship(師弟の関係、あり方)とは、より経験の豊富な師匠と若くて未熟な弟子との間に気付かれる将来において期待される発展的な関係のことであり、Dr. Karabinは自分の成長にとってすぐれた師との出会いがあったために自分の人生が方向づけられたと述べた。若い歯科医には良き師を求め、その後ろ姿から学びとってほしい。
3.私の開業医としての変遷
私の開業した時代は日本が高度成長期に入り社会的にも大きな変動を経てきた時代であり、歯科医学も歯科医療もかってない変革を経験して現在に至っている。歯科医師となった当初、自分が臨床の拠り所としていたものは、Dr.Beachによる歯科医療の四大目的でありそれを本姿勢として、治療の段階を考えつつ治療方針を立案し系統的に治療を進めることを目標としていた。
1960〜1970年頃の日本の歯科医療は欧米に比較しきわめて遅れていた。そして当時良い歯科医師とはすぐれた修復補綴治療をすることがその条件であったように思う。この時代に近代歯科の考え方がおもに米国留学から帰国した先生方から広められ、多くの人々は彼らから学んだものである。
最初良い修復補綴治療を指向した私の臨床は、その根幹をなす歯髄根管系や歯周組織への配慮そして予防歯科に対する認識が欠如していたことにより、これらの分野の勉強の必要性を痛感することになった。そして私の関心は、歯周病学と歯周治療学、そして根管治療に向かった。歯周治療は国内で勉強する場が少なく、知人の紹介でアメリカ歯周病学会に入会し、学会に出席すると同時に開催地にある歯学部の歯周病科や、歯周病専門医の診療室を訪れ、実際の治療を見学した。また来日する臨床家の講演や実示にはできるだけ時間をつくり参加してきた。学んだことは患者の治療に反映させてきたつもりである。自分としてはそれぞれの時点で最善を尽くしたが長い年月の経過を見ると一部には見るも無惨な状況となってしまった症例もあった。失敗症例を詳細に検討してみると大部分は我々の治療努力に対してコンプライアンス(即ち患者の治療内容の理解や協力)が得られなかったものであったが、一部には誠実な治療努力に対してはかばかしい応答が得られなかった症例もみられた。
内外の研究論文や症例報告などを参照してみると、個体の治療に対する応答(Host response)の問題が関与しているものと思われた。そのような要因として、喫煙、糖尿病、ストレス、女性ホルモンの生涯を通しての変動、薬剤の副作用など数多くの全身的背景を考えなければならないことが示唆されたのである。歯周病は口腔局所の問題としてだけでなく、全身疾患とのかかわりがすこしづつ解明されつつあり、1990年代後半には、歯周医学(Periodontal
Medicine)という概念が生まれた。今後は、口腔の健康管理を十分に行うことが人々のQOLにとって重要であることを歯科から強く発信することが望まれる。
図1に、1914年にアメリカ歯周病学会が創設されてから現在までの歯周治療の変遷と歯周病のとらえ方の歴史的変遷の概要を示す。このような歴史の流れを背景として現在があることを折に触れてぜひ思い起こして欲しいとおもうし、また自分が師(指導者)と仰ぐ人物はどのような背景を有し、どの位置に立っているかを客観的に認識しておくことは重要であると思う。このことはどのような分野を勉強するにしても求められる基本的姿勢であろう。
図2は、1950年代以降の歯周病のおもに細菌学を中心とした病因論の変遷を示したものである。私が教育を受けた時代は、歯周病は非特異的であり、微生物が複合して歯周感染を起こすとされ、治療法としては徹底したプラーク・コントロールが強調されていた。1970年代になると歯周病の病因として特異的な細菌の存在が指摘されるようになった。その後個体と細菌の相互関連(Host-Parasite Interrelation)が着目され、個体の免疫応答や危険因子が重視されるようになった。現在では糖尿病など全身疾患との関連が注目をあびている。一方インプラントの普及にともないインプラント周囲炎の病態も課題となっている。
4.症例から学んだこと
講演では具体的症例を示し、時代背景とその時行った治療の背景となった論理(Rationale)そして直近の状態を口腔内写真とX線写真で示したが紙幅の都合により省略したい。
5.若い歯科医にとくに心がけてほしいこと
臨床歯科医師として活躍することを指向している方々には以下の3つを目標としていただきたい。
(1).患者の記録をできるだけ正確に規格性のある資料として残すこと.
(2).G.V.Blackの述べているように継続的な学生として生涯を通して勉強、研修を続けること.
(3).反省的実践家であること.
反省的実践家というのはSchonがReflective Practitionerと表現したもので、自分のことが冷静に客観視でき、さらに悪い点は自助努力で変えることのできる能力をもつ、いわば「賢い」普通の大人になることといわれている。私自身、そのような歯科医師でありたいと願っている。
指名発言 多和田 泰之
対立か共存か? インプラントと歯周治療
近年、歯科インプラントは欠損補綴の一つのオプションとして欠かせないものになってきました。しかもその関連分野は補綴だけにとどまらず、口腔外科、歯周治療、歯科矯正と広範にわたり、特に歯周治療はインプラントの適応症の拡大、審美性の向上、メンテナンスに密接に関わる重要な分野です。そのため多くの歯周外科専門医が(補綴専門医とペアで)インプラントを積極的に取り入れるようになりました。インプラント補綴は、歯周治療のサポートとして、
vertical stopの確保、支台歯・鉤歯の回避が可能になり、天然歯の保護という観点で有効な治療法であると同時に、メンテナンスが複雑化し、インプラント周囲炎が発症すれば治療が困難であり、隣在歯に悪影響を与える可能性もあり、予後の予見性を低下させる要因にもなります。 さらに、歯周疾患はインプラントの第一のリスクファクターであり、また、歯周炎による欠損顎堤はインプラントの適応が困難な場合が多いという相反する関係もあります。興味深いことに日本歯周病学会はインプラント治療のガイドラインを補綴歯科学会や口腔インプラント学会に先立って発表しており、歯周治療分野でのインプラントへの関心の高さがわかります。今日は、インプラントのメンテナンスの問題点とインプラント周囲炎の症例をいくつか提示しながら、歯周治療におけるインプラントの功罪についてお話しします。
指名発言 永田和裕
日本歯科大学新潟病院 総合診療科 あごの関節・歯ぎしり外来
口腔の管理と力のコントロール -パラファンクションと歯・歯周組織の障害-
現在総合診療科では,矯正など一部を除いた大部分の治療を一人の歯科医師が担当しており,20年以上補綴専門医として行った治療のメインテナンスを自分自身で行っています.その中で強く感じたことの1つは,十分な口腔管理を行っているにも関わらず,根の破折や補綴物のトラブルが継続し,残存歯を喪失していく患者さんが存在することです.このような,“不本意な”トラブル症例を詳細に観察すると,後方臼歯や誘導歯において,過剰な負担荷重の生じている歯を中心に障害が発生しており,パラファンクションに起因する過剰あるいは不正な力が障害の原因となっていることが推察されます.
最近では,咬合因子が歯周病のリスク因子ひとつと認識されるようになっていますが,実際に,咬合因子がどのように障害の発生に関わっているのかは明らかにされていません.このような状況のもとで,ブラキシズムを中心としたパラファンクションの存在は,咬合因子と歯周病をリンクさせる重要なkeyとなる可能性があります.今回の発言では,過剰な力によって生じると考えられる障害に関して,自身の症例とブラキシズム運動解析結果を合わせて提示させていただきます.
指名発言 久保田健彦
新潟大学医歯学総合病院 噛み合わせ診療科 歯周病診療室
歯周組織再生治療のオプションと咬合再建を含めた包括的歯周治療
私は、歯周病専門医の立場から、「歯周再生治療のオプションと咬合再建を含めた包括私的歯周治療」と題しまして、石井先生の基調講演に話題を加える形で、歯科医療のパラダイムシフトの観点から、最近の歯科医療のトレンドである「最小介入治療 Minimal Intervention; MI」「歯周再生治療 Periodontal regenerative therapy」「包括的歯科医療 Interdisciplinary dentistry」の概念と、石井先生のライフワークでもあります禁煙や全身との関連を含め、歯周炎の「リスク診断」「個体医療」の考え方、診療方針立案にもふれながら、症例を交えてお話ししたいと思います。時間が短いとは思いますが、医歯薬出版から2011年10月に出版予定の別冊、「歯と歯列を守るための歯根膜活用術」「歯周組織再生と歯根膜」の章を担当しましたのでご覧いただけましたら幸いです。昨今、審美歯科、レーザー治療、マイクロスコープの応用、歯周組織再生療法(根面被覆、GTR, GBR、エムドゲイン、PRP)およびインプラント治療など、大都市では毎週末研修会が開催されております。もちろん積極的に新しい技術を研鑽することはとても重要ですが、基本を大切に「患者さんの歯と健康を守る」という原則も忘れないようにしたいものです。そんな、私が日頃考えている雑感もお伝えしながら、深井先生のリクエストでもあります「楽しいディスカッション」が出来る会になればと考えておりますので、どうかよろしくお願い致します。
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東北電力ビックスワンスタジアム 2011.7月31日 日曜日
午前9時30分から、午後5:00まで,チャリティー講演会が開催されました.当日は130名の方のご参加を頂き,無事に会を終了することが出来ました.ご参加ご協力頂いた皆様,また協賛,ご後援頂いた団体の皆様に,あらためて感謝申し上げます.皆様から頂いた参加費は,新潟県歯科技工士会より、義援金として被災された皆様へお渡しする事になっております.
主催:東日本大震災支援プロジェクト実行委員会
後援:新潟県歯科技工士会,新潟県歯科衛生士会,明倫短期大学,新潟県歯科医師会,日本歯科大学新潟病院
講演内容:要旨
関根 明 —金属床義歯の適合と臨床—
金属床の鋳造に伴う,適合性の向上を図る方法に関して,演者が行った,適合シミュレーション実験に基づいた, 科学的・合理的な解決法について,解説を行いました.
川崎 律子 —口腔の「健康」と「美」—
口腔の健康と審美的な治療に必要とされる,歯周組織や,修復物の治療や管理法に関して,とくに衛生士,歯科医 師,技工士の業務連携の観点から,長期症例を示して解説を行いました.
菅原 佳広 —Microscopic Dentistry for Estheticー
Microscpe を活用した,審美的な修復治療に関して,多数の臨床例を提示するとともに,コンポジットレジンを用 いた,ダイレクトレストレーションついて,実際の臨床例を動画を用いて解説を行いました.
永田 和裕 —磁性アタッチメント義歯の特徴と,臨床のポイントー
各種の部分欠損h補綴治療治の比較を行った上で,磁性アタッチメント義歯の特徴と,臨床での注意点に関して,欠 損形態ごとの症例を示して解説を行いました.
片岡 繁夫 —Harmony 審美補綴に必要な天然歯形態と色彩表現—
自然で美しい,前歯の形態と色調に関して,観察の要点や,構造的な特徴を踏まえたポイントを整理するととも に,E-maxを使用した新しいラミネートベニア修復について,症例を示して解説を行いました.